2007.02.09 Friday

君と見る蒼空 01

「時音、お前に話したいことが、沢山あるんだ」





明け方から降り始めた雨は、午後になって更に強さを増していた。
風も強くなってきたようで、教室の窓を叩く音が煩く感じるようになってきた。
「台風が来ているという話だ。お前等、寄り道しないでさっさと帰れよ」
終業のショートホームで、担任が声をかける。外の様子を見る限り、寄り道しようという気持ちを削がせるには十分な勢いの雨足だ。さようならの挨拶の後は、生徒達は疎らに廊下へと出て行った。
部活動に参加している者は、雨だろうが部活はある。警報が出ているとか言うのであれば、強制的に中止になるけれど。まだ、そこまでは行かないらしい。「中止にならないかなぁ」と、嘆きの言葉もちらほらと聞こえてくる。
良守は荷物を全てリュックに放り込むと、ガタンと席を立った。そのまま廊下に出て玄関へと向かう。
「墨村ー? 帰るのかー?」
この声は市ヶ谷の声か。聞こえてはいたけれど、返事をする気分にもなれず。良守はそのまま歩き続ける。
廊下の角を曲がって、姿が見えなくなってしまったので、市ヶ谷も諦めて教室内に戻ろうとした。方向転換すると、そこに神田が立っていた。中等部の二年、三年と良守や市ヶ谷と同じクラスだったけれど、高等部になってクラスが別れてしまった。二年になった時も、結局、隣のクラスだった。それでも、時折、良守と話している姿を見るような気がしていたが。
「行っちゃったね、墨村君」
「まぁ、あいつは元々、授業が終わったら、すっ飛んで帰ってたからな」
「バイトでもしてんじゃないの?」
廊下で立ち話をしていると、そこに田端も加わる。データバンク・田端を持ってしても、良守は謎の存在らしい。
「あいつ、ほとんど寝てるからなぁ・・・。会話に参加しないし」
神田は良守のことに関して、ひとつだけ秘密を知っている。それは、誰にも言わないと約束したことだし、言ったところで信じてもらえないことだということも理解している。田端のバイトという言葉に、ふとそんな秘密の裏稼業のことを思った。結界師のお仕事、忙しいのかな?
「確かにな。学校に来たとたんに寝て、終わったらさっさと帰っちまう。あいつ、学校に寝に来てんだろ」
「だから、怪しい夜のバイトしてるんだって」
「・・・でも、最近、更におかしくなったと思わないか?」
「そうか? 眠そうだな・・・ってくらいだけど」
何かが違う。それは、神田も感じていたこと。
学校の立っているこの地を守るために、夜毎、妖退治をしている。だから、昼間に眠そうなのは前からだけれども・・・。
「・・・あ、そうか」
「ん? 何か思い当たる節でもある?」
「っていうか。ずっと、前までと違うなって思ってたんだけど。何が違うかわからなかったんだけど。やっとわかった。墨村君、笑わなくなったんだ・・・」
以前、神田が相談した時。心配しなくていいよと、ぎこちないながらも笑いかけてくれたのに。
今は、誰が何を言っても、うんとか、ああとか返事するだけで。表情がないのだ。
一人で納得している神田に、市ヶ谷と田端は視線を交し合う。以前から神田が良守に恋しているという噂があったけれど、全く出鱈目ではないのかもしれない。女の子らしい発想というか。恋する相手だからこそ気付いたことなのか。
思わず、意味深な視線を送ってしまう、二人だった。


校門を出た良守は、家とは逆方向へと歩き出した。
ここ数ヶ月、毎日決まったコースだ。迷うことはなかったが、足取りが重いのは雨と強風のせいだけではなかった。
行ったところで、何も出来ない。でも、行かずにはいられない。相反する思いが、一歩一歩を鈍らせる。それでも、向かい風を押し切って、良守は歩いていた。
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