■ ■ ■ 恋のレシピ
女の子向け雑誌の人気特集といえば、何といっても恋愛関係だ。
『絶対にカレ氏ができる!』
『モテ服特集!』
『最強の恋愛マニュアル』
ビックリマークとハートマークが乱舞する表紙。赤とピンクに彩られ、きらきらと星まで飛んでいる。
バレンタインが近付いているとあっては、誰もが興味津々だ。
昼休みにお弁当を食べながら、蘭はクラスメイトと一緒に彼女たちが持ってきた雑誌を捲っていた。
一月中旬。お正月気分もすっかり抜けて、お店にも次々とバレンタイン用のチョコレートが陳列されはじめる。雑誌に載っているイチオシチョコや、手作りチョコの話題で盛り上がっている。
「真美子ってC組の澤井君狙いなんだってー!」
「うっそ! 澤井君って彼女いるんじゃないの?」
「それがね、年明け早々に別れたんだって!」
「ホントにー? 私も澤井君にしようかなぁ・・・」
「ちょっと! 加奈はA組の安田君って言ってたじゃない!」
「えー、だってー。安田君より澤井君のほうがカッコいいしー」
「だめだめっ! これ以上ライバル増えたら困るー!」
何をあげるかも大切だが、誰にあげるかのほうが重要事項だ。
ここ数年、バレンタインデーにチョコレートをプレゼントすることが儀式化してしまった。本来のバレンタインデーの意味などどうでもよくて、この一大イベントに参加することにこそ意義があるようだ。
想いをよせる人に愛の告白をする。
女の子が秘めた想いを伝える。
言葉にできない想いをチョコレートに託す。
恥じらいではにかんで頬を染めながらチョコレートを渡す。
バレンタインデーというマジックで、最大限の勇気を貰って。
そんないじらしくて可愛らしいイベントだったはずなのに。
いつから、女の子はこんなに逞しくなってしまったのだろうか。
一人で何十個もチョコレートを配る子もいる。菓子メーカーの戦略には乗らないと、我関せずな子もいる。呪いでもかけるように、チョコレートに想いを込める子もいる。クラスメイトたちの十人十色なバレンタイン談義を蘭は他人事のように聞いていた。
もちろん、蘭にはチョコレートをあげる人がいる。
一応は恋人と呼べる間柄だとは思うが、二人の間ではバレンタインデーにチョコレートを渡すのは定例化してしまっていて、今更、甘い雰囲気もない。
目の前で、作戦を練っているクラスメイトたちから見れば幸せなことなのかもしれないが・・・。
「でも、こんなんで本当に彼氏なんてできるのかなぁ・・・」
加奈がばさりと読んでいた雑誌を机の上に投げる。
見ると『これでカレのハートは貴方のもの!』なんて、もっともらしい煽り文句が目に痛い。
「何? 何か書いてあった?」
「んー? ああ、コレ」
加奈が指差した記事は『告白&チョコの渡し方パーフェクト術』。シチュエーション別・タイプ別などで、男の子がぐっとくる告白シーンをシュミレーションしてある。
「だってさ、この雑誌、ティーン誌の中で一番の売れ行きなんだよ? これ読んだ子が、みーんな同じ告白するのかと思うと、ちょっとげっそりしない?」
「あー、わかるわかる。恋愛マニュアルとか、ありえないって思うよね」
そう言うわりにはやけに熱心に読んでたわよね?という素朴な疑問は、蘭の心の中だけに留めておく。彼氏がいるというだけでも、彼女たちから見れば一歩先行くらしく、下手なことを言うと僻まれてしまう。
「あら? そんなの読んだって無駄よ」
背後から聞こえてきた声に、あっと振り向く。
「園子! どこ行ってたの? お弁当、食べ終わっちゃったわよ?」
昼休みに入ってすぐに用事があると教室から出ていた園子だった。
「恋愛なんてね、データが勝負よ!」
蘭の問いかけは無視されて、おーほっほと高らかに笑った。
「データって・・・。コレがデータじゃないの?」
加奈が雑誌の特集ページを見せる。街頭で男子高校生100人にインタビューした結果だとか、タイプ別の性格分析だとか。確かに雑誌の記事は様々なデータを元に纏められている。
「そんな不特定多数のデータなんて集めたってしょうがないでしょ? アタシたちが集めなきゃいけないのは、チョコレートを渡す相手、そう、愛しのダーリンのデータに決まってるじゃない!」
ダーリンという言葉にみんなが引いている。
言ってる園子本人は、演劇部の公演にでも出ているかのように、自分の台詞にうっとりとしている。
ひとしきり自己陶酔に浸っていた園子は、満足したのか、視線をこちらに戻した。
「だからね、こんなところでマニュアル雑誌見てるんじゃなくて、好きな人ウォッチングして彼の好みを見つけるのよ!」
行動あるのみ。
それを実践しているだけに、園子の言には一理ある。
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