■ ■ ■ 傷だらけの僕ら
夏休み中、航が海に行こうと凪を連れ出す。
砂浜でボール蹴りつつ、航は波打ち際で遊んでる。
凪は海に入ろうとしない。
水着じゃないから泳ぐのは無理として、足くらい・・・と、航が波打ち際に引っ張っていく。
「嫌っ! 駄目っ!」航を突き飛ばすようにして浜へと逃げて、そこで蹲る。
「ごめん・・・。もしかして、泳げない・・・とか?」
航が駆け寄ると、凪はがくがくと震えている。
まるで、あの日の自分みたいに―――。
これは、ただ泳げないとか。水が怖いとか。そんなんじゃない。
直感でそう感じて、震える凪を抱き上げて、神社に戻る。
その間、「ごめんなさい」と凪は言っているけど。それは航に言っているようではない。
「修晃さん!」神社に着いて、修晃を呼ぶ。凪の様子を見て、修晃はちっと舌打ちする。
「悪い、そのまま部屋まで運んでくれるか」「はい」
足についた砂を落として、ベッドに寝かせる。
自分が踏み込んでいい領域ではないだろうから、そのまま帰ろうとすると、修晃に呼び止められる。
麦茶を入れてくれて、縁側に並んで座る。
「あいつ、何か言ってたか?」「・・・ごめんなさいって」「そうか」
「それから・・・。私が殺した、って・・・」
航がありのままに答えると、修晃は押し黙った。
内容が内容だけに、言わないほうがいいのかと思ったけど。
「凪がここにいるのって、もしかして、緊急避難? あの時の俺みたいに・・・」
航が指摘すると、修晃は苦笑して俯いた。それが肯定を表していた。
「昨年の夏、凪の母親が死んだんだ」
修晃の兄・琉聖(りゅうせい)は、海が好きでダイビングやライフセーバーのライセンスを取得。
沖縄に移住してダイビングのインストラクターをしていた。そこで結婚、凪が生まれた。
昨年の夏、家族で海水浴に出かけ、琉聖はシュノーケリングをしていた。
浮輪につかまって泳いでいた凪は、浮輪から落ちておぼれかけた。
母親が気付いて助けに行ったが、凪は助かったけど逆に母親が死んでしまった。
「溺れた人間を助けにいった者が逆に溺れるっていうのは、よくあることだ」
琉聖もライフセーバーの資格も持っているからそれくらいわかっていた。
葬儀のために修晃が沖縄に行った時も、自分が近くにいなかったことを悔やんでいた。
それから数ヶ月して。
凪が泣きながら電話をしてきた。母親の死後、琉聖が酒に溺れてしまったと。
再び、修晃が沖縄に行くと、荒れた琉聖と、暴力で傷つけられた凪がいた。
琉聖をアルコール中毒者の厚生施設に押し込んで、凪を連れ帰った。
凪が受けていた虐待は、暴力によるものだけでなく、言葉によるものもあった。
「お前が母親を殺した」と。
「毎日毎日、延々と言葉で弄られていたんだ。トラウマにもなるさ」
「航は今までと変わらず、凪と話してやってくれ」
ぽんっと頭に手を置かれ、「うん・・・」と小さく呟いた。
凪はいつも明るくて、そんなこと微塵も感じさせなかった。
傷ついているのは自分だけじゃない。
それでも、みんな前を向いて歩いている。
俺が悩んでいることなんて、ちっぽけなものだ。
砂浜でボール蹴りつつ、航は波打ち際で遊んでる。
凪は海に入ろうとしない。
水着じゃないから泳ぐのは無理として、足くらい・・・と、航が波打ち際に引っ張っていく。
「嫌っ! 駄目っ!」航を突き飛ばすようにして浜へと逃げて、そこで蹲る。
「ごめん・・・。もしかして、泳げない・・・とか?」
航が駆け寄ると、凪はがくがくと震えている。
まるで、あの日の自分みたいに―――。
これは、ただ泳げないとか。水が怖いとか。そんなんじゃない。
直感でそう感じて、震える凪を抱き上げて、神社に戻る。
その間、「ごめんなさい」と凪は言っているけど。それは航に言っているようではない。
「修晃さん!」神社に着いて、修晃を呼ぶ。凪の様子を見て、修晃はちっと舌打ちする。
「悪い、そのまま部屋まで運んでくれるか」「はい」
足についた砂を落として、ベッドに寝かせる。
自分が踏み込んでいい領域ではないだろうから、そのまま帰ろうとすると、修晃に呼び止められる。
麦茶を入れてくれて、縁側に並んで座る。
「あいつ、何か言ってたか?」「・・・ごめんなさいって」「そうか」
「それから・・・。私が殺した、って・・・」
航がありのままに答えると、修晃は押し黙った。
内容が内容だけに、言わないほうがいいのかと思ったけど。
「凪がここにいるのって、もしかして、緊急避難? あの時の俺みたいに・・・」
航が指摘すると、修晃は苦笑して俯いた。それが肯定を表していた。
「昨年の夏、凪の母親が死んだんだ」
修晃の兄・琉聖(りゅうせい)は、海が好きでダイビングやライフセーバーのライセンスを取得。
沖縄に移住してダイビングのインストラクターをしていた。そこで結婚、凪が生まれた。
昨年の夏、家族で海水浴に出かけ、琉聖はシュノーケリングをしていた。
浮輪につかまって泳いでいた凪は、浮輪から落ちておぼれかけた。
母親が気付いて助けに行ったが、凪は助かったけど逆に母親が死んでしまった。
「溺れた人間を助けにいった者が逆に溺れるっていうのは、よくあることだ」
琉聖もライフセーバーの資格も持っているからそれくらいわかっていた。
葬儀のために修晃が沖縄に行った時も、自分が近くにいなかったことを悔やんでいた。
それから数ヶ月して。
凪が泣きながら電話をしてきた。母親の死後、琉聖が酒に溺れてしまったと。
再び、修晃が沖縄に行くと、荒れた琉聖と、暴力で傷つけられた凪がいた。
琉聖をアルコール中毒者の厚生施設に押し込んで、凪を連れ帰った。
凪が受けていた虐待は、暴力によるものだけでなく、言葉によるものもあった。
「お前が母親を殺した」と。
「毎日毎日、延々と言葉で弄られていたんだ。トラウマにもなるさ」
「航は今までと変わらず、凪と話してやってくれ」
ぽんっと頭に手を置かれ、「うん・・・」と小さく呟いた。
凪はいつも明るくて、そんなこと微塵も感じさせなかった。
傷ついているのは自分だけじゃない。
それでも、みんな前を向いて歩いている。
俺が悩んでいることなんて、ちっぽけなものだ。
Comments