■ ■ ■ 呪縛(修正版)2
15.安息(遥視点)
会わなければ、光征の気も変わるかもしれない。
仕事では、トラブルさえなければ社長室へ行くことはない。
(光征が故意に壊すことはありえるかもしれない)
あとは、知られてしまったこの休憩室に来なければ、会うことは格段に減るだろう。
そうしよう。そうしなきゃ。
そんなことを考えていると、「ここに来なくなるってのは却下だからな」と釘を刺された。
「ここで会えなくなったら、会うチャンスないだろ? そんなことしたら、社長室に無理矢理呼び出すからな」
「・・・公私混同です」「夜中なら誰も文句言わないよ」「私には就業時間です」
「じゃ、本当にぶっ壊せばいいんだ」「やめてください」
そんなこんなで。結局、夜勤の週は真夜中のお茶会が開催されている。
遥が急に仕事が入る場合もあるし、光征も毎日決まった時間に来れるわけじゃない。
毎日というわけにはいかなかったけど、ほんの少しだけ、恋人同士みたいな時間。
光征は仕事の時も口数が多いほうじゃない。
正輝が話していて、時折、光征が修正や指示を挟む感じだった。
休憩室でも、話を盛り上げて大笑いする・・・という雰囲気ではなく。
ただ、となりにいるだけ。それだけなのに。いつの間にか、その時間が大切になっていて。
光征が来なかった日は、ちょっとがっかりしている自分がいた。
ある夜。光征といる時に電話がかかってきた。
仕事ではなく、私用の電話。ただ、相手が雑談などでかけてくるような相手じゃないから出る。
「裕介さん? 何かあったんですか?」『・・・さつきが・・・』「さつきさんが何か?」
要領をえなくて、やきもきしていると、電話口で『代わる』と声がする。
『俺、昴だけど』「うん」『さつきさんが倒れたんだ』「えっ?」
『医者が言うには、多分、今夜が峠だって』「今夜って・・・」
『ごめん。黙ってたけど、前から体調を崩してたんだ』「そ、んな・・・」
携帯を持つ手が震える。『今から、来れる?』「行くに決まってるでしょ!」『もう電車、ないよ』
「とにかく行くからっ!」『・・・わかった。○○病院だから』「うん」
携帯を切ると、「ごめんなさい。行かなきゃ」と理由も言わず立ち去ろうとした。
「何かあった?」「いえ・・・」「・・・何も無いって顔じゃないだろ?」
どうしよう。すぐに行きたい。でも、もう電車はない。
遥は車の免許を持っていないから、車という手段も使えない。タクシー? 幾らかかるのよ。
でも。行かなきゃ。さつきさんが・・・。
「遥っ!」
大声で呼ばれて、びくっと肩を竦める。
「何があった? 話して」
光征なら、車を持ってる。でも、明日だって仕事があるんだし。乗せていってと言える距離じゃない。
中央道を使ったって、4時間近くかかる。でも。始発が動くまで待っていたら・・・。
すっと光征の手が頬に触れる。「泣いてないで話してみろ。何かできるかもしれないだろ?」
優しい笑顔を向けられて、堅く閉ざしていた城壁が崩れたような気がした。
16.(光視点)
突然、目の前で泣き出されて驚いた。直前にかかってきた電話のせいなんだろうけれど。
一体、何があったんだ?
泣き崩れた遥は、しゃくりあげながら、「さつきさんが死んじゃう」と繰り返した。
「遥の大切な人?」「・・・おばです」「じゃあ、すぐに行きな。・・・つってもこの時間か」
時計を見る。とっくに終電なんて終わってる。駅前まで行けば、タクシーくらいならつかまるか?
でも。この状態の遥を一人で行かせるのも、不安だ。
「・・・送るよ。今日、遥の他に出てるのは誰だ?」「・・・課長が・・・」「なら俺が話しをつけよう」
言っても、遥は動こうとしない。
「時間がないんだろ? 早くしないと・・・」
「・・・無理です」「え?」「送っていただける距離じゃないんです。明日の仕事に差し支えます」
「緊急事態だ。こっちが優先」「でも・・・。本当に遠いんです」「え? どのくらい・・・?」
「・・・高速で4時間・・・」
うわっ。東京から高速で4時間ってことは。京都とか行けるだろ。
東京を中心に同心円を描いて、頭を悩ませる。優先と言ってしまった手前、もう後には引けない。
明日の予定を思い出す。午前中の会議は、自分がいなくても大丈夫か。
午後のN社との打ち合わせは・・・。藤田と代わりに正輝に行かせれば大丈夫か・・・?
最悪、朝一で俺だけ戻れば午後には会社につける距離だろう。
「わかった。連れてってやるから、涙拭け」
システム部に顔を出し、驚く課長に遥に代わって説明し、支度を待つ間に正輝に電話を入れた。
時間が時間だから、留守電になっているかもと思いつつかけた電話は、しっかり2コールで出られた。
「もしかしたら、しばらく戻れないかもしれない」「・・・そうだね。でも、ついててあげたいんだろう?」
「ああ。できるなら」「わかったよ。弔事って言えば誰も文句は言えないしね」「悪い」
「うん。その代わり。しっかり彼女を支えてあげなよ? 多分、あのコ、脆いよ」
正輝のほうが女を見る眼があるはずだ。「わかった」と伝え、車に向かった。
「アパートとか寄るか?」「・・・そうしてもらえると助かります」
思いがけず、遥の住まいを知ることになった。
「中央道で長野に向かってください」「実家は長野なのか?」
「実家・・・というか。おばの住まいが安曇野なんです」「安曇野だな?」「はい」
「わかった。近くまでついたら起こすから。遥は休んでろ」「すみません」
小さくそう呟いたけれど、遥が眠った気配はない。まぁ、眠れないか。
かけるべき言葉も思いつかず、光征はただ車を走らせた。
17.(遥視点)
昴から聞いた病院に辿り着いたのは、空が白みはじめたころだった。
多分、かなりのスピードオーバーで走ってきたのだろうけれど、それは大目に見よう。
遥が来るのを待っていたかのように、ロビーのソファに人影がある。
「・・・遥」「すば・・る・・・。さつきさんは・・・?」恐る恐る聞く。「・・・こっち」
歩き出そうとして、昴が顔色を変える。「・・・誰?」駐車場に車を停めてきた光征がいた。
「あ・・・、えと。彼は・・・」「柚澤光征です。遥を送って来ました」
「・・・遥の彼氏?」「残念ながら、今はまだ」「でもここまで来るってことは、そういうこと?」
「そうなれればと思ってます」>言う時は言うよ、光征も。
「・・・まぁ、いいや。彼氏の一人も紹介したほうが、さつきさんも安心するだろ」
エレベーターに乗って上階に向かう。病室にいくということは、まだ、間に合ったのよね?
震える手を光征が握ってくれた。「大丈夫」声にしないけど、彼の顔がそう言っている。
ノックして病室に入ると、裕介がさつきの手を握ってる。
「遥ちゃん! 良かった。間に合って」そう言って、席を空けてくれる。
皐月は眠っている。胸が上下に動いていることで、生きているとわかる。
繋がれた機械からも、心拍にあわせてピッピッと音が鳴っている。
「・・・いつから?」「半年・・・くらいかな」「・・・病名は?」「・・・白血病」
それは遥にとっては一番聞きたくない病名。
「どうして、言ってくれなかったの?」「皐月が言うなって」「そんな・・・っ」
話し声が聞こえたのか、皐月が眼をあけた。
「皐月さんっ!」「・・・遥? やだ。来ちゃったのね」「来るよ。当たり前じゃない」
「弱ってる姿、見せたくなかったなぁ」「何言ってるの!」
皐月が遥の頭を撫でる。「貴方を一人にしてしまうわね」「そんなこと、言わないで・・・」
光征に気づく。「彼?」「あ、えと・・・。上司?」「そう・・・」嬉しそうにちょっと笑う。
「柚澤光征と申します」「・・・柚澤? じゃあ、柚澤社長の・・・?」「父を、ご存知ですか?」
「ええ・・・。有名な方ですから」>その言葉で、遥は皐月が『あのこと』を知っているんだと気づく。
「少し、眠ってもいいかしら?」「うん。休んで、皐月さん」
「しばらく、私がついてますから。裕介さんも昴も、休んで」
「遥だって徹夜で来たんだろ?」「私が運転してきたわけじゃないから。大丈夫」
仮眠室を借りて、二人を休ませる。光征にも「ありがとうございました」と言う。
でも、光征は「今日はこっちにいるよ」と、付いててくれる。
18.(光視点)
「一人にしてしまうわね」という皐月の言葉が気になる。
遥は自分の話をほとんどしない。でも、この様子だと、両親はいないのか?
外に出て正輝に連絡を入れる。「・・・しばらく、休んでも大丈夫か?」
「パーティだとか打合せは、弔事ってことで乗り切れる。どうしてもお前じゃないと・・・っていうのが
出てきたら連絡入れるよ」
「携帯はしばらく出れないと思うから。留守電入れといてくれ」「わかった」
病室に戻ると、遥も転寝している。起こそうか悩むが、ほっとしたのだろうし、休ませておく。
すると皐月が眼をさました。
「あ、遥を起こしましょう」「いえ。いいの。貴方にお願いしていいかしら?」「はい?」
「そこの引出に、遥宛の手紙があるの。取ってくださる?」手渡すと、また光征の方に返された。
「私が死んだら、この手紙を遥に渡してほしいの。それから・・・できることなら、一緒に読んであげて。
多分、このコ一人では抱えきれないと思うから。秘密を分け合ってくれるかしら?」
「私は・・・」恋人じゃない、と言おうとしたけど。
「柚澤さんの息子さんに出会ってるなんて。やっぱり、因果なものね」と呟いた皐月に言葉を呑んだ。
「ごめんなさい。こんなこと頼んで。秘密は墓場まで持っていこうかと思っていたけど。
貴方が今日ここに来たのも運命なのかもしれないわ」
秘密って、何だ? 自分と遥の関係に、父が何か関わっているのか?
自分の死期を悟っているだろう人の願いを無下に断ることはできない。「お預かりします」とだけいい、
受け取った手紙を内ポケットに隠した。
それから数時間後、皐月が息を引き取った。
人の死の瞬間に直面することは、そうあることではない。自分もそういえば初めてかもしれない。
祖父が亡くなったときはまだ幼くて、家で正輝と知幸の世話を命じられたっけ。
遥は遺体にすがりついて泣いていた。今は泣かせてやるほうがいい。
悲しい時には泣いて、嬉しい時には笑って。
そうやって感情を露にしていかないと、いつかは感情をなくしてしまう。
部外者である自分がここにいてはいけない気がして、そっと部屋から出た。
ロビーにいると、しばらくして裕介が来た。
「お忙しいところ、ありがとうございました」「いえ。私は、何も・・・」
「電車が動くのを待っていたら、遥ちゃんは皐月に会えなかったと思います」(8時頃かな、今)
「ご迷惑ついでに・・・。遥ちゃんのこと、お願いします」
<しばらく裕介の語り>
私なんかが言う必要もないかもしれませんが。遥ちゃん、ご両親を早くに亡くして。
身内といえば、皐月と私たちくらいだったんです。それでも、気丈に。良い子になりました。
本来なら、私が親代わりになるべきなんでしょうが。こうして離れた場所で暮らしてますし。
頼りにならない大人ですね。皐月が遥ちゃんをそれはそれは大事にしていたのに・・・。
彼女を幸せにしてあげてください。
誤解されているとわかっていても、その誤解を正そうとは思わなかった。
遥を大事に思うのは、自分も同じ。
だが、遥は同情されることなど、不本意だろう。
それが、彼女の背中をぴんと真っ直ぐに張らせていたんだな。
一人にしないで、と。さっき泣き喚いていたのが、彼女の本心なのだ。
19.暴露(遥視点)
かつて、皐月が使っていた二階の部屋から、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
裕介は天文学をやっていて、安曇野にある天文台に勤務している。>ほんとは安曇野には天文台などありません。
それくらいにキレイな星空。ほら、星も泣いている。(瞬いている)
会社に電話して、明日から忌引で休ませてもらいたい旨を伝えたら、おばの場合は、三親等だから、
2日間だけだと言われた。
「たった一人の血縁者なんです」そう粘って、3日間にしてもらった。そうすれば土日もあって、
しばらくの間は休むことができる。
今日が通夜で、明日が葬儀だから、本当は2日あれば終わるのだけれど。
今、仕事に出ても何も手につくはずがない。もう、コマンドだって頭に浮かばないわ。
「・・・遥、大丈夫か?」
光征は帰らずにずっと傍にいてくれた。迷惑をかけていると思いつつ、その腕にすがる自分が浅ましい。
「・・・これ、皐月さんから預かった」そう言って1通の手紙を渡された。
「一緒に読めと言われたけど、読んでいいか?」「え?」「内容は聞いてない。ただ、一緒に読んでやってと」
「・・・なんだろう?」「遥が嫌なら、俺は読まない」「・・・皐月さんがそう言ったのなら」
手紙を広げる。ひらりと何かが落ちた。拾うと1枚の写真と病院のカルテだった。
その写真は、随分古びたもので、遥も知っているものだった。慌てて光征から隠そうとしたけど遅くて。
「・・・これ、親父か?」気づかれてしまった。
「それに、母さんも。こっちは芳川さんだろ?」「・・・うん」「なんで・・・」
その写真には、男が3人、女が2人の5人が写っていた。ワイズ創立記念の写真だった。
「こっちが、私の母よ」
もう隠せない。「私の母は、未婚のままで私を産んだの。父親は誰だかわからない。教えてくれなかった」
「・・・まさか」多分、光征も同じ発想をしたのだろう。息を飲んで遥を見た。
もしかしたら、自分たちが兄妹かもしれないと。
母の遺品から、同じ写真を見つけた。東京の大学に進んで、必死で調べた。
写真に写っていたのが、ある美大の校舎だとわかり、その大学に行って卒業者名簿とか漁った。
「写真に写っているのが、柚澤社長と奥様、芳川副社長・・とここまではわかったの。あと一人。この人は」
「柳原さんだ・・・」「知ってるの?」「覚えてる。まだ本当に子供の頃、よく遊んでくれた」
「そう・・・。じゃあ、亡くなってるのも知ってるのね?」「ああ。行方不明だって」
「山で遭難したんですって。母はこの柳原さんの恋人だった」「え? じゃあ・・・」
「うん。私もこの人がお父さんなのかなって思ったわ。でも、計算が合わないの」
柳原が遭難した年月日と、遥の誕生日と。どう計算してみても、1年のズレがある。
「私がおなかの中に2年近くもいたっていうなら別だけどね」
だとしたら? どんなに調べても、この3人以外、母の周囲には男の影がない。
行きずりの男が父親だなんて、考えたくもない。
そして、母はこの町に越してきて、私を産んだ。自分の故郷でもないこの町で。
「故郷じゃないのか?」「ええ。星野の本当の家は軽井沢なんだって」
同じ県内ではあるけれど、距離は離れている。おばは母のことが放っておけず、越してきてくれた。
「どうして、ここに?」「・・・柳原さんが遭難した山がね、この町から見えるの。登山口もここが基点」
「・・・好きな人のそばに・・・ってこと?」「そうなのかな?」「ロマンチストだ」
20.(光視点)
「じゃあ、どうしてワイズに入ったんだ? 父親のことを探るため?」
「最初はね、そんなこと考えてたのかもしれない。もしかしたら父かもしれない。
そう思ったら、少しでも近くにいたかった。でも、今となっては、ばかなことしたなって思ってるわ」
仕事上、俺と父・芳川親子も何かと話す機会は多い。
そんな姿を目の当たりにすれば、辛くなるだろう。
自分には与えられない愛情。公表することもできない。なのに、視界には入ってくる。
「だから、俺の告白も保留にしたわけ?」「・・・うん」
「好きか嫌いの二択以外・・・ね。確かに3番目の選択肢だな。家族っていうのは」
「そうじゃないと思いたい。だって、社長も副社長もご夫婦、仲睦まじいじゃない。
浮気してたなんて、考えたくない。そしたら、どんどんわからなくなってしまった」
「そういえば。皐月さん、秘密がどうとか言ってた」「秘密?」「ああ。本当は墓場まで持っていくべきか・・・とか」
思い出したように、遥は手紙を広げて文字を追った。
皐月が言った秘密とは。遥の母・弥生が犯した罪の告白だった。
柳原が行方不明になって、半錯乱状態にあったせいだと。
当時、不妊治療のために、冷凍保存していた柳原の精子を使って、違法に遥を身籠ったと。
一緒に入っていたカルテが、そのときの証拠だと。
だから。年月日は合わないが、紛れもなく遥は柳原と弥生の子供だと。
逃げるように安曇野に来て、ひっそりと暮らしていた。
「殺人の時効って15年よね? 私の罪は遥が生きている限り、許されることはないのね」
最後に弥生はそんなことを言っていたそうだ。
「・・・私は、生まれちゃいけなかったの?」
遥の存在が、弥生に自分が犯した罪を告発していたのかもしれない。
遥を見るたびに、自分の罪の重さを実感していたのかもしれない。
でも。だからといって、遥に何の罪がある?
産む決心をしたのは、弥生であって。遥が産んでくれと頼んだわけじゃない。
子供は親を選べない。家庭を選んで生まれてくることはできない。
生まれ育った場所を受け入れて、成長していくしかないのに。
今になって、それを否定するようなことを言われても。子供にはどうしようもないじゃないか。
21.孤独(遥視点)
本当に独りぼっちになってしまった。
物心ついたころから、母と皐月との3人暮らしだった。
近所の人は、未婚で遥を産んだ弥生を影でこそこそ言っていたし。遥にだって風当たりは強かった。
だから、母が死んで。高校を卒業してからは、何の未練もなくこの町を出た。
友達はいたけれど、本当に心を許していたかと聞かれれば、いつも壁を作っていた。
見送ってくれたのは、皐月と昴だけだった。(裕介は仕事でした)
一人でも平気。一人でも生きていけると。自分に何度もそう言い聞かせて。
本当は誰よりも一人が怖かったくせに。
皐月がいるとおもって甘えていた。何かあったら、皐月のもとへ帰れると思っていたのに。
「・・・もう、生きてく意味が見つからない」
私は何がしたくて生きているのだろう。
朝起きて、仕事をして、寝るだけ。そんな生活に何の意味があるんだろう。
皐月が「頑張れ」っていうから、一日一日を乗り切ってきたのに。
「もう、誰もいない・・・」
無力感が遥を支配する。指一本動かすのも億劫だ。
このまま、何にもしなければ。私もお母さんと皐月さんのところに行ける?
「行くなっ!」
光征がいることさえ、もう忘れていた。
抱き締めるその腕の強さが、ようやく現実味を帯びてくる。「俺がいる。だから、行くな」
22.(光視点)
無くしたくないと、今ならはっきりと言える。
「俺が家族になる。だから、死ぬな」
会わなければ、光征の気も変わるかもしれない。
仕事では、トラブルさえなければ社長室へ行くことはない。
(光征が故意に壊すことはありえるかもしれない)
あとは、知られてしまったこの休憩室に来なければ、会うことは格段に減るだろう。
そうしよう。そうしなきゃ。
そんなことを考えていると、「ここに来なくなるってのは却下だからな」と釘を刺された。
「ここで会えなくなったら、会うチャンスないだろ? そんなことしたら、社長室に無理矢理呼び出すからな」
「・・・公私混同です」「夜中なら誰も文句言わないよ」「私には就業時間です」
「じゃ、本当にぶっ壊せばいいんだ」「やめてください」
そんなこんなで。結局、夜勤の週は真夜中のお茶会が開催されている。
遥が急に仕事が入る場合もあるし、光征も毎日決まった時間に来れるわけじゃない。
毎日というわけにはいかなかったけど、ほんの少しだけ、恋人同士みたいな時間。
光征は仕事の時も口数が多いほうじゃない。
正輝が話していて、時折、光征が修正や指示を挟む感じだった。
休憩室でも、話を盛り上げて大笑いする・・・という雰囲気ではなく。
ただ、となりにいるだけ。それだけなのに。いつの間にか、その時間が大切になっていて。
光征が来なかった日は、ちょっとがっかりしている自分がいた。
ある夜。光征といる時に電話がかかってきた。
仕事ではなく、私用の電話。ただ、相手が雑談などでかけてくるような相手じゃないから出る。
「裕介さん? 何かあったんですか?」『・・・さつきが・・・』「さつきさんが何か?」
要領をえなくて、やきもきしていると、電話口で『代わる』と声がする。
『俺、昴だけど』「うん」『さつきさんが倒れたんだ』「えっ?」
『医者が言うには、多分、今夜が峠だって』「今夜って・・・」
『ごめん。黙ってたけど、前から体調を崩してたんだ』「そ、んな・・・」
携帯を持つ手が震える。『今から、来れる?』「行くに決まってるでしょ!」『もう電車、ないよ』
「とにかく行くからっ!」『・・・わかった。○○病院だから』「うん」
携帯を切ると、「ごめんなさい。行かなきゃ」と理由も言わず立ち去ろうとした。
「何かあった?」「いえ・・・」「・・・何も無いって顔じゃないだろ?」
どうしよう。すぐに行きたい。でも、もう電車はない。
遥は車の免許を持っていないから、車という手段も使えない。タクシー? 幾らかかるのよ。
でも。行かなきゃ。さつきさんが・・・。
「遥っ!」
大声で呼ばれて、びくっと肩を竦める。
「何があった? 話して」
光征なら、車を持ってる。でも、明日だって仕事があるんだし。乗せていってと言える距離じゃない。
中央道を使ったって、4時間近くかかる。でも。始発が動くまで待っていたら・・・。
すっと光征の手が頬に触れる。「泣いてないで話してみろ。何かできるかもしれないだろ?」
優しい笑顔を向けられて、堅く閉ざしていた城壁が崩れたような気がした。
16.(光視点)
突然、目の前で泣き出されて驚いた。直前にかかってきた電話のせいなんだろうけれど。
一体、何があったんだ?
泣き崩れた遥は、しゃくりあげながら、「さつきさんが死んじゃう」と繰り返した。
「遥の大切な人?」「・・・おばです」「じゃあ、すぐに行きな。・・・つってもこの時間か」
時計を見る。とっくに終電なんて終わってる。駅前まで行けば、タクシーくらいならつかまるか?
でも。この状態の遥を一人で行かせるのも、不安だ。
「・・・送るよ。今日、遥の他に出てるのは誰だ?」「・・・課長が・・・」「なら俺が話しをつけよう」
言っても、遥は動こうとしない。
「時間がないんだろ? 早くしないと・・・」
「・・・無理です」「え?」「送っていただける距離じゃないんです。明日の仕事に差し支えます」
「緊急事態だ。こっちが優先」「でも・・・。本当に遠いんです」「え? どのくらい・・・?」
「・・・高速で4時間・・・」
うわっ。東京から高速で4時間ってことは。京都とか行けるだろ。
東京を中心に同心円を描いて、頭を悩ませる。優先と言ってしまった手前、もう後には引けない。
明日の予定を思い出す。午前中の会議は、自分がいなくても大丈夫か。
午後のN社との打ち合わせは・・・。藤田と代わりに正輝に行かせれば大丈夫か・・・?
最悪、朝一で俺だけ戻れば午後には会社につける距離だろう。
「わかった。連れてってやるから、涙拭け」
システム部に顔を出し、驚く課長に遥に代わって説明し、支度を待つ間に正輝に電話を入れた。
時間が時間だから、留守電になっているかもと思いつつかけた電話は、しっかり2コールで出られた。
「もしかしたら、しばらく戻れないかもしれない」「・・・そうだね。でも、ついててあげたいんだろう?」
「ああ。できるなら」「わかったよ。弔事って言えば誰も文句は言えないしね」「悪い」
「うん。その代わり。しっかり彼女を支えてあげなよ? 多分、あのコ、脆いよ」
正輝のほうが女を見る眼があるはずだ。「わかった」と伝え、車に向かった。
「アパートとか寄るか?」「・・・そうしてもらえると助かります」
思いがけず、遥の住まいを知ることになった。
「中央道で長野に向かってください」「実家は長野なのか?」
「実家・・・というか。おばの住まいが安曇野なんです」「安曇野だな?」「はい」
「わかった。近くまでついたら起こすから。遥は休んでろ」「すみません」
小さくそう呟いたけれど、遥が眠った気配はない。まぁ、眠れないか。
かけるべき言葉も思いつかず、光征はただ車を走らせた。
17.(遥視点)
昴から聞いた病院に辿り着いたのは、空が白みはじめたころだった。
多分、かなりのスピードオーバーで走ってきたのだろうけれど、それは大目に見よう。
遥が来るのを待っていたかのように、ロビーのソファに人影がある。
「・・・遥」「すば・・る・・・。さつきさんは・・・?」恐る恐る聞く。「・・・こっち」
歩き出そうとして、昴が顔色を変える。「・・・誰?」駐車場に車を停めてきた光征がいた。
「あ・・・、えと。彼は・・・」「柚澤光征です。遥を送って来ました」
「・・・遥の彼氏?」「残念ながら、今はまだ」「でもここまで来るってことは、そういうこと?」
「そうなれればと思ってます」>言う時は言うよ、光征も。
「・・・まぁ、いいや。彼氏の一人も紹介したほうが、さつきさんも安心するだろ」
エレベーターに乗って上階に向かう。病室にいくということは、まだ、間に合ったのよね?
震える手を光征が握ってくれた。「大丈夫」声にしないけど、彼の顔がそう言っている。
ノックして病室に入ると、裕介がさつきの手を握ってる。
「遥ちゃん! 良かった。間に合って」そう言って、席を空けてくれる。
皐月は眠っている。胸が上下に動いていることで、生きているとわかる。
繋がれた機械からも、心拍にあわせてピッピッと音が鳴っている。
「・・・いつから?」「半年・・・くらいかな」「・・・病名は?」「・・・白血病」
それは遥にとっては一番聞きたくない病名。
「どうして、言ってくれなかったの?」「皐月が言うなって」「そんな・・・っ」
話し声が聞こえたのか、皐月が眼をあけた。
「皐月さんっ!」「・・・遥? やだ。来ちゃったのね」「来るよ。当たり前じゃない」
「弱ってる姿、見せたくなかったなぁ」「何言ってるの!」
皐月が遥の頭を撫でる。「貴方を一人にしてしまうわね」「そんなこと、言わないで・・・」
光征に気づく。「彼?」「あ、えと・・・。上司?」「そう・・・」嬉しそうにちょっと笑う。
「柚澤光征と申します」「・・・柚澤? じゃあ、柚澤社長の・・・?」「父を、ご存知ですか?」
「ええ・・・。有名な方ですから」>その言葉で、遥は皐月が『あのこと』を知っているんだと気づく。
「少し、眠ってもいいかしら?」「うん。休んで、皐月さん」
「しばらく、私がついてますから。裕介さんも昴も、休んで」
「遥だって徹夜で来たんだろ?」「私が運転してきたわけじゃないから。大丈夫」
仮眠室を借りて、二人を休ませる。光征にも「ありがとうございました」と言う。
でも、光征は「今日はこっちにいるよ」と、付いててくれる。
18.(光視点)
「一人にしてしまうわね」という皐月の言葉が気になる。
遥は自分の話をほとんどしない。でも、この様子だと、両親はいないのか?
外に出て正輝に連絡を入れる。「・・・しばらく、休んでも大丈夫か?」
「パーティだとか打合せは、弔事ってことで乗り切れる。どうしてもお前じゃないと・・・っていうのが
出てきたら連絡入れるよ」
「携帯はしばらく出れないと思うから。留守電入れといてくれ」「わかった」
病室に戻ると、遥も転寝している。起こそうか悩むが、ほっとしたのだろうし、休ませておく。
すると皐月が眼をさました。
「あ、遥を起こしましょう」「いえ。いいの。貴方にお願いしていいかしら?」「はい?」
「そこの引出に、遥宛の手紙があるの。取ってくださる?」手渡すと、また光征の方に返された。
「私が死んだら、この手紙を遥に渡してほしいの。それから・・・できることなら、一緒に読んであげて。
多分、このコ一人では抱えきれないと思うから。秘密を分け合ってくれるかしら?」
「私は・・・」恋人じゃない、と言おうとしたけど。
「柚澤さんの息子さんに出会ってるなんて。やっぱり、因果なものね」と呟いた皐月に言葉を呑んだ。
「ごめんなさい。こんなこと頼んで。秘密は墓場まで持っていこうかと思っていたけど。
貴方が今日ここに来たのも運命なのかもしれないわ」
秘密って、何だ? 自分と遥の関係に、父が何か関わっているのか?
自分の死期を悟っているだろう人の願いを無下に断ることはできない。「お預かりします」とだけいい、
受け取った手紙を内ポケットに隠した。
それから数時間後、皐月が息を引き取った。
人の死の瞬間に直面することは、そうあることではない。自分もそういえば初めてかもしれない。
祖父が亡くなったときはまだ幼くて、家で正輝と知幸の世話を命じられたっけ。
遥は遺体にすがりついて泣いていた。今は泣かせてやるほうがいい。
悲しい時には泣いて、嬉しい時には笑って。
そうやって感情を露にしていかないと、いつかは感情をなくしてしまう。
部外者である自分がここにいてはいけない気がして、そっと部屋から出た。
ロビーにいると、しばらくして裕介が来た。
「お忙しいところ、ありがとうございました」「いえ。私は、何も・・・」
「電車が動くのを待っていたら、遥ちゃんは皐月に会えなかったと思います」(8時頃かな、今)
「ご迷惑ついでに・・・。遥ちゃんのこと、お願いします」
<しばらく裕介の語り>
私なんかが言う必要もないかもしれませんが。遥ちゃん、ご両親を早くに亡くして。
身内といえば、皐月と私たちくらいだったんです。それでも、気丈に。良い子になりました。
本来なら、私が親代わりになるべきなんでしょうが。こうして離れた場所で暮らしてますし。
頼りにならない大人ですね。皐月が遥ちゃんをそれはそれは大事にしていたのに・・・。
彼女を幸せにしてあげてください。
誤解されているとわかっていても、その誤解を正そうとは思わなかった。
遥を大事に思うのは、自分も同じ。
だが、遥は同情されることなど、不本意だろう。
それが、彼女の背中をぴんと真っ直ぐに張らせていたんだな。
一人にしないで、と。さっき泣き喚いていたのが、彼女の本心なのだ。
19.暴露(遥視点)
かつて、皐月が使っていた二階の部屋から、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
裕介は天文学をやっていて、安曇野にある天文台に勤務している。>ほんとは安曇野には天文台などありません。
それくらいにキレイな星空。ほら、星も泣いている。(瞬いている)
会社に電話して、明日から忌引で休ませてもらいたい旨を伝えたら、おばの場合は、三親等だから、
2日間だけだと言われた。
「たった一人の血縁者なんです」そう粘って、3日間にしてもらった。そうすれば土日もあって、
しばらくの間は休むことができる。
今日が通夜で、明日が葬儀だから、本当は2日あれば終わるのだけれど。
今、仕事に出ても何も手につくはずがない。もう、コマンドだって頭に浮かばないわ。
「・・・遥、大丈夫か?」
光征は帰らずにずっと傍にいてくれた。迷惑をかけていると思いつつ、その腕にすがる自分が浅ましい。
「・・・これ、皐月さんから預かった」そう言って1通の手紙を渡された。
「一緒に読めと言われたけど、読んでいいか?」「え?」「内容は聞いてない。ただ、一緒に読んでやってと」
「・・・なんだろう?」「遥が嫌なら、俺は読まない」「・・・皐月さんがそう言ったのなら」
手紙を広げる。ひらりと何かが落ちた。拾うと1枚の写真と病院のカルテだった。
その写真は、随分古びたもので、遥も知っているものだった。慌てて光征から隠そうとしたけど遅くて。
「・・・これ、親父か?」気づかれてしまった。
「それに、母さんも。こっちは芳川さんだろ?」「・・・うん」「なんで・・・」
その写真には、男が3人、女が2人の5人が写っていた。ワイズ創立記念の写真だった。
「こっちが、私の母よ」
もう隠せない。「私の母は、未婚のままで私を産んだの。父親は誰だかわからない。教えてくれなかった」
「・・・まさか」多分、光征も同じ発想をしたのだろう。息を飲んで遥を見た。
もしかしたら、自分たちが兄妹かもしれないと。
母の遺品から、同じ写真を見つけた。東京の大学に進んで、必死で調べた。
写真に写っていたのが、ある美大の校舎だとわかり、その大学に行って卒業者名簿とか漁った。
「写真に写っているのが、柚澤社長と奥様、芳川副社長・・とここまではわかったの。あと一人。この人は」
「柳原さんだ・・・」「知ってるの?」「覚えてる。まだ本当に子供の頃、よく遊んでくれた」
「そう・・・。じゃあ、亡くなってるのも知ってるのね?」「ああ。行方不明だって」
「山で遭難したんですって。母はこの柳原さんの恋人だった」「え? じゃあ・・・」
「うん。私もこの人がお父さんなのかなって思ったわ。でも、計算が合わないの」
柳原が遭難した年月日と、遥の誕生日と。どう計算してみても、1年のズレがある。
「私がおなかの中に2年近くもいたっていうなら別だけどね」
だとしたら? どんなに調べても、この3人以外、母の周囲には男の影がない。
行きずりの男が父親だなんて、考えたくもない。
そして、母はこの町に越してきて、私を産んだ。自分の故郷でもないこの町で。
「故郷じゃないのか?」「ええ。星野の本当の家は軽井沢なんだって」
同じ県内ではあるけれど、距離は離れている。おばは母のことが放っておけず、越してきてくれた。
「どうして、ここに?」「・・・柳原さんが遭難した山がね、この町から見えるの。登山口もここが基点」
「・・・好きな人のそばに・・・ってこと?」「そうなのかな?」「ロマンチストだ」
20.(光視点)
「じゃあ、どうしてワイズに入ったんだ? 父親のことを探るため?」
「最初はね、そんなこと考えてたのかもしれない。もしかしたら父かもしれない。
そう思ったら、少しでも近くにいたかった。でも、今となっては、ばかなことしたなって思ってるわ」
仕事上、俺と父・芳川親子も何かと話す機会は多い。
そんな姿を目の当たりにすれば、辛くなるだろう。
自分には与えられない愛情。公表することもできない。なのに、視界には入ってくる。
「だから、俺の告白も保留にしたわけ?」「・・・うん」
「好きか嫌いの二択以外・・・ね。確かに3番目の選択肢だな。家族っていうのは」
「そうじゃないと思いたい。だって、社長も副社長もご夫婦、仲睦まじいじゃない。
浮気してたなんて、考えたくない。そしたら、どんどんわからなくなってしまった」
「そういえば。皐月さん、秘密がどうとか言ってた」「秘密?」「ああ。本当は墓場まで持っていくべきか・・・とか」
思い出したように、遥は手紙を広げて文字を追った。
皐月が言った秘密とは。遥の母・弥生が犯した罪の告白だった。
柳原が行方不明になって、半錯乱状態にあったせいだと。
当時、不妊治療のために、冷凍保存していた柳原の精子を使って、違法に遥を身籠ったと。
一緒に入っていたカルテが、そのときの証拠だと。
だから。年月日は合わないが、紛れもなく遥は柳原と弥生の子供だと。
逃げるように安曇野に来て、ひっそりと暮らしていた。
「殺人の時効って15年よね? 私の罪は遥が生きている限り、許されることはないのね」
最後に弥生はそんなことを言っていたそうだ。
「・・・私は、生まれちゃいけなかったの?」
遥の存在が、弥生に自分が犯した罪を告発していたのかもしれない。
遥を見るたびに、自分の罪の重さを実感していたのかもしれない。
でも。だからといって、遥に何の罪がある?
産む決心をしたのは、弥生であって。遥が産んでくれと頼んだわけじゃない。
子供は親を選べない。家庭を選んで生まれてくることはできない。
生まれ育った場所を受け入れて、成長していくしかないのに。
今になって、それを否定するようなことを言われても。子供にはどうしようもないじゃないか。
21.孤独(遥視点)
本当に独りぼっちになってしまった。
物心ついたころから、母と皐月との3人暮らしだった。
近所の人は、未婚で遥を産んだ弥生を影でこそこそ言っていたし。遥にだって風当たりは強かった。
だから、母が死んで。高校を卒業してからは、何の未練もなくこの町を出た。
友達はいたけれど、本当に心を許していたかと聞かれれば、いつも壁を作っていた。
見送ってくれたのは、皐月と昴だけだった。(裕介は仕事でした)
一人でも平気。一人でも生きていけると。自分に何度もそう言い聞かせて。
本当は誰よりも一人が怖かったくせに。
皐月がいるとおもって甘えていた。何かあったら、皐月のもとへ帰れると思っていたのに。
「・・・もう、生きてく意味が見つからない」
私は何がしたくて生きているのだろう。
朝起きて、仕事をして、寝るだけ。そんな生活に何の意味があるんだろう。
皐月が「頑張れ」っていうから、一日一日を乗り切ってきたのに。
「もう、誰もいない・・・」
無力感が遥を支配する。指一本動かすのも億劫だ。
このまま、何にもしなければ。私もお母さんと皐月さんのところに行ける?
「行くなっ!」
光征がいることさえ、もう忘れていた。
抱き締めるその腕の強さが、ようやく現実味を帯びてくる。「俺がいる。だから、行くな」
22.(光視点)
無くしたくないと、今ならはっきりと言える。
「俺が家族になる。だから、死ぬな」
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