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2008.08.01 Friday

カフェ11

虹の架け橋
 急に外が暗くなってきた。
 これは、一雨来そうだな、と奥のキッチンにいる美咲に声をかけた。
「洗濯物って外に干してる?」
「うん。干してるよ」
「夕立が降りそうだから、取り込んどいて」
「え? ホント?」
 キッチンにも窓はあるのだが、そんなに大きな窓ではない。ましてや手元に集中していては、天気の変化など気付かないだろう。美咲はきりのいいところまで終えると、エプロンを外して2階へと向かった。
 ほどなくして、水滴が窓を叩きはじめた。
「やだー、降ってきた」
「えー? 傘持ってないよー」
 店内の客たちからもそんな声が聞こえる。
 真夏のこの時期。夕立はそんなに珍しいことではないけれど。
 雨は一気に勢いを増し、本格的な土砂降りになった。いつもは眼下を遠くまで見渡せる窓に、雨が打ちつけられて痛々しい。
 夕焼け前の時間帯。景色のためにロールカーテンをあげていたが、一旦下すことにした。
「失礼しますね」
 店内を歩き、4枚のカーテンを操作していく。
「きゃーっ! 冷たーいっ!」
 激しいドアベルの音と共に、飛び込んできた女性がいた。
 見ると、全身濡れ鼠になっている。夕立があると、時折、こうやって雨宿りがてら立ち寄ってくれる客がいる。
「いらっしゃいませ」
「あ、本城さん、こんにちわ」
「すっかり濡れましたね、加納さん」
 坂の上にある大学の学生だった。大きなキャンパス地のバッグまでぐっしょりと濡れていた。
「タオル、お持ちしましょう」
「え? あ、すみませんっ」
 奥を覗くと、美咲も用意周到で、すっとタオルが差し出された。
「さんきゅ」
「いーえ」
 タオルを受け取って店内に戻ると、出入口で立ち尽くしたままの加納に手渡した。
「ホント、すみませんっ!」
 何度も頭を下げる加納に「いいんですよ」と笑う。
「ちゃんと拭いてください。風邪を引きますよ?」
「はい。ありがとうございます」
 髪や露出した腕を拭いたあとも、「濡らしちゃうから」と椅子にも座ろうとしない。それでは、せっかくこの店に飛び込んでくれた意味がない。
「じゃあ、不恰好だけど・・・」
 キッチンから自分が使っているパイプ椅子を持ってきた。これなら座椅子部分はナイロン張りだから、濡れても拭けば大丈夫だ。
「何から何まで、お心遣いありがとうございます」

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