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2008.01.21 Monday

海保話?

トッキュー隊員(モデルは真田隊長)と、女性の航空整備士の話。
まぁ、職場恋愛なんだけど(笑) ちょっと特殊な職場ってことで。図書隊っぽく行けないかしら、と。
・片桐仁(かたぎり じん)
 特救第二隊隊長
 無口で冷静沈着なタイプ
 必要事項以外しゃべらないような感じ
・夏堀深空(なつほり みく)
 父親がパイロットだったが、事故で海で死んだ。
 そのため、海が怖い。
 父に憧れていたので、飛行機関係の仕事につきたかったが、CAは身長が足りない。
 対人関係も苦手なので、地上勤務も諦め、整備士になった。
 小柄なので、狭いところにもすんなり入ってチェックできると重宝がられている。

http://shingakunet.com/qua/shosai/v1730.html
http://www.aero.cst.nihon-u.ac.jp/

「うわー、女の子がいる!」
 雑多な事務所内には、仕切りなんてものは存在しない。
 出入口からどかどかと入ってきた男達が、パイプ椅子に座って固まっている小柄な女性に目を留めて騒ぎ出した。
 担当者を呼んでくるから、しばらくここで待つようにと言われてから早十分。まだ、戻ってくる様子もない。
 好奇の目に晒されて、夏堀深空は小さい体をさらに縮こませた。
「おいおい、あんまり苛めんでくれよ。うちのホープなんだから」
「前橋さんとこの新人さん?」
「そうだ。ちょくちょく来ることになるだろうから、可愛がってくれや」
 隣に座る主任・前橋圭蔵にばしっと背中を叩かれて深空はそうっと顔を上げた。
「・・・夏堀と申します。よろしくお願いします」
 被ったキャップをとり、ぺこりと頭を下げる。
「かわいー!」
「なっちゃんだって」
「すごいねー、女の子で整備士なんて」
 わいわいと群がる男達にたじろいでしまう。
 深空が今いるのは、東京国際空港からほど近い場所にある海上保安庁・羽田特殊海難基地。海難救助のスーパーエリートと呼ばれる特殊救難隊が在籍する基地だった。群がっている男達は、特殊救難隊の隊員達。つまり、誰もが体格がいい男達だった。身長が150cmに届かない深空など、一捻りされてしまうような猛者ばかり。
「こら! 怖がらせてどうする!」
 隊員たちの後ろから叱咤の声とともに現われたのは、片桐仁。特殊救難隊の第二隊隊長だった。ぽかりと隊員たちの頭を小突きながら、前橋と夏堀の正面に立った。
「片桐。柴田は捕まったか?」
「今、出てます」
「・・・救難か?」
「はい。すでに救助は終わったとの報告が入ってますので、一時間ほどで戻ると思うのですが。お待ちになりますか?」
「機体が戻ってこんことには、何もできんからな・・・」
「すみません。今日が点検日だとわかってましたら、ご連絡したんですが・・・」
「片桐が謝ることじゃない。あいつだ、あいつ」
 前橋はふーっとあからさまに溜息をついた。柴田というのは、この羽田航空基地に導入されているAS332L1のパイロットだ。今日は定期的な点検ではなく、柴田に気なることがあるということで呼び出されたのだった。
 だが、救難に出動しているというのであれば、文句は言えない。
 整備中だから飛ばせない、では話にならない。そのためにも、同型機を二機導入している。
「え? じゃあ、それまでなっちゃんは俺たちと!」
「お前等は訓練だろ! さっさと行け!」
「ちぇーっ」
 片桐の一睨みで、ようやく隊員たちは奥へと入っていった。
 ほっと胸を撫で下ろしていると、片桐がお茶を淹れて戻ってきた。
「申し訳ない。ここには、女性は滅多に来ないから。驚かせてしまったね」
「いえ。男性ばかりなのは慣れてます」
 整備士という職業も、まだまだ男の仕事である。数年前、テレビドラマで女性整備士がヒロイン役になったことはあったが、実際に女性が目指す仕事ではない。
「そう? 最初、結構びくついてたみたいだけど?」
「あれは・・・。ちょっと、怖そうな人たちだったので」
 そっと深空が本音を漏らすと、片桐もつられたように小さく笑った。

     *

 特殊海難隊では、六つの隊がローテーションで任務に就いている。
 第二隊の隊長である片桐は、そろそろ交替の時間になると、基地へと向かった。
「おう、片桐!」
 後ろから声をかけてきたのは、航空機・ヘリコプター類の整備士・前橋だった。
 機体整備は、通常、それぞれの基地に専任の整備士を置いており、毎日の整備・点検を行っている。
 だが、それらの整備士が不具合の可能性を見つけ出した際や、パイロットが異常を訴えた場合など、メーカー修理へ出すかなどの最終判断を行う整備士たちがいる。前橋もその一人だ。特殊海難隊のある羽田航空基地には、ヘリの他、小型ジェット機なども所有しているため、何かと整備士とは顔をあわせる。
「前橋さん、何か異常がありましたか?」
「いや、柴田が気になることがあるらしくてな。呼び出し喰らった。そっちは、これからか?」
「はい」
 前橋が並ぶまで立ち止まっていると、その横についてくる小さな影が目に付いた。
 同じ制服を着ているのだから、同じ海上保安庁の職員であることはわかるが。小柄なその体は、女性特有の丸みを帯びていた。
 男女の差別なく採用されるようにはなったが、今でもその数は三百人程度だ。まして、警備・救難の現場では、身体的な差が歴然と出てしまうため女性隊員はほとんどいない。内勤者がほとんどだろう。片桐が知る女性隊員といえば、男性とも見劣りしない大柄なパイロットくらいだ。
「ああ、こいつはうちの整備士だ。今、俺について研修中だ」
「夏堀と申します。よろしくお願いします」
 ぺこりと丁寧に頭を下げられて、「こちらこそ」と、片桐も挨拶を返した。
「こう見えて、エリートだぞ。大事にしろよ?」
「へえ?」
 小柄でしかも童顔。本当に社会人かと思うような雰囲気だ。高校生と言っても通用するのではないかと思える。
 こんな子供が整備士?
 少し不安を覚えたが、前橋がエリートだと言うのならば腕は認められているらしい。

 事務所に行くと、はやり女性に飢えている隊員たちの餌食になってしまった。
 最初は屈強な男達に慄いていたようだが、次第に慣れてきたのか、普通に接している。
 自分が心配することではないか、と片桐は自分の注意の中から片桐のことを消した。
「見学させていただいてよろしいですか?」
「どうぞ。所々に取扱注意のものが置いてあるから、それだけ注意していただければ」
「はい」
 二人を呼びつけた柴田が不在だったため、待ち時間ができてしまった。先ほどまでは基地専属の整備士と打ち合わせをしていたようだが、それも終わったらしい。前橋も待機中の隊員をからかって遊んでいる。
 航空機の格納庫だけではなく、潜水器具なども見て回っている。手にはメモ帳らしきものを持ち、何やら書き綴っているようだ。
「・・・熱心だろう?」
「そうですね。ガルフストリームを見たいっていうならわかりますけど」
 いつの間にか前橋が隣に来ていた。片桐は手元のクリップボードに挟んだチェック表にメモを取りながら、ちらりとまた片桐に視線を送った。
 海と空、陸ではそれぞれ装備が異なる。航空機の整備士はそれ専門になる。元々、海上保安庁が擁する整備士の数も、船舶関係が主で、航空機類の整備士の数は少ない。
「・・・空ばかり見てたようだから、海のもんが珍しいんかもな」
「?」
 前橋の言葉は、片桐に聞かせようとした感じではなく、思わず口から出たようだった。
 その言葉の意味を考えながらも、片桐は装備点検を続けた。

     *

「ホントに海に潜るんだなぁ・・・」
 深空は並んだ酸素ボンベやマスク類を見ながら、ぽつりと呟いた。
 航空整備士の資格を取った大学の同期たちのほとんどが、航空会社の整備工場などに就職を決めていった。その中で、海上保安庁に希望を出した深空に、教授たちも驚いていた。
 最初から入ろうと思っていたわけではない。整備士の資格は取ったが、今後、どうしようかと迷っていた時、たまたま見た映画に海上保安庁のレスキューシーンがあったのだった。クルージング中の豪華客船が舞台となったミステリーもので、最後に船に取り残された主人公を、海上保安庁がヘリで救助するというものだった。
 それまで、海上保安庁といえば、船というイメージだったから、深空には新鮮だった。なるほど、言われて見れば沖で転覆した船に救助に向かうのに、船で行くよりヘリのほうが早い。こんなところでもヘリは活躍しているんだ。
 そんな時に、海上保安庁の求人募集を見て、思わず応募してしまった。
 まさか、合格するとは思っていなかった。
 変な因果関係だ。
「なっちゃんは、潜ったことある?」
 突然声をかけられて、どきっと肩を震わせた。
 見ると、棚の向こう側に人が立っていた。さきほど階下で顔をあわせたときは私服だったが、今は制服に着替えているのでその中にいたのかどうか覚えがない。
「ああ、ごめん。脅かしちゃったね」
「いえ。すみません、勝手に入って」
「いーのいーの。なっちゃんだって、海保なんだから。遠慮する必要ないよ」
 どうやら『なっちゃん』の呼称が定着してしまったらしい。
「で? 潜ったことある?」
「いえ。私、逆に海って苦手で」
「そうなの? 海保なのに」
「航空整備士ですから。それに試験に『潜水』とかなかったし」
 年が近そうな感じがして、つい、ため口になっていた。
「そういや、そうだ」
 ふむ、と納得して、彼は手を差し伸べてきた。
「俺、水野一輝。第二隊の潜水士なんだ。よろしく!」
「・・・こちらこそ」
 握手した手はとても大きくて力強い。ああ、男の人なんだなぁ、と感じた。
「うわっ! カズ、抜け駆け!」
 急に階下が騒がしくなって、トレーニングをしていたのか汗をかいた隊員たちが入ってきた。
「俺は藤崎」
「高木! 高木大輔!」
 争うように名前を叫ばれては、いくら深空でも覚えられない。
 えと。どうしよう。
 躊躇していると、遠くからヘリの音が聞こえてきた。
「あ、」
 その場にいた全員が動きを止めた。空港がすぐそばなので、ジェット機の利発着はひっきりなしだ。その中で、時折ヘリが通る。近くには新聞社のヘリの格納庫があり、そこへ向かうものかもしれない。
「・・・AS332」
「え?」
「ごめんなさい! 私、行かなきゃ!」
 がばっと頭を下げて、深空は隊員たちの間を駆け抜けていった。
「わー、すげー。ローター音、聞き分けてるぜ」
 誰かの呟きが聞こえる。ああ、もう。これだから航空機オタクって言われるのよね。
 今となっては、それが仕事だ。
 階段を駆け下りて、外へ出る。前橋の姿を見つけて、隣へと急いだ。

 

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