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2007.05.01 Tuesday

福井風?

福井晴敏風?


追記
「殺されたいらしいな」(口の悪い男お題)???


蘭は取り壊し寸前の廃ビルの中を駆けていた。
照明など灯るはずもなく、割れた窓ガラスから入り込んでくる幾ばくかの光だけが頼りだ。何度も転びそうになり、その度に強く手を引いてくれる存在がなければ、蘭はとうに挫けていただろう。
蘭の右手を握るその手は力強く、どこまでもぐいぐいと前へ引っ張ってくれる。
はあはあと荒い息をたてながら、何度目かの角を曲がった。
増設に増設を重ねたらしいビルは、まるで迷路のように入り組んでいる。隠れる場所は無数にあるが、救いとなる出口を見つけられずにいた。
背後から迫ってくる足音が、次第に大きくなっているような気がしてならない。
だが、蘭には振り向く勇気がなかった。
きっと、目にしてしまったら。本当に挫けてしまう。
ザッと靴音を立てて、前を走る新一が立ち止まった。その行く手をドアに阻まれてしまったのだ。
「くそっ」
ノブを回してみても、鍵がかけられているらしい。
「蘭、さがってろ」
ボタン式の簡易ロック錠だ。これなら、何とかななる。
右手に持っていた銃を構えなおすと、ドアとの接合部に向けて弾を放った。
サイレンサー付の銃からは、パシュッと蘭の耳にようやく届くほどの音しか聞こえなかったが、ドアからは弾とドアノブが弾ける音が響いた。
これで、敵にも居場所が知れたかもしれない。それでなくても、向こうはプロだ。迷っている暇はない。
「行くぞ」
「うん」
差し出された左手を握る。
壊れて半開きになったドアを抜けて、2人はまた走り出した。
灯台の回転灯が、等間隔で新一の横顔を照らす。
その秀麗な顔には、何の感情も感じられなくて、ぞくりと蘭の背中に冷たい汗が流れた。
新一の右手に握られた拳銃。
父が元警察官で、馴染みの刑事も多い。間近で拳銃を見るのは初めてではない。
だが、その拳銃が新一の手の中にあるということが、未だ異質なことのように感じられてならない。
ここは日本で。一般人が拳銃を持つことは許されていない。
今、新一が持っている拳銃も、先ほどの乱闘の際に敵が持っていたものを奪い取ったものに他ならない。
なのに、新一は使い慣れた風に敵に向けても発射していた。
「・・・行き止まりだ」
苦々しく呟いて壁に手をついたのも一瞬だけだった。
周囲のドアや窓を全てチェックして、逃げ道はないか、隠れられる場所はないかと探している。
今更のように、蘭に恐怖心が蘇えってくる。
目の前にいる新一に対しての恐怖なのか。追い詰められたこの状況に対する恐怖なのか。迫り来る死への恐怖なのか。自分でもわからないまま、とにかく体中が震え、足に力が入らなくなる。
「蘭っ!」
倒れそうになる寸前で、新一が抱きとめた。
拳銃を持つ右手はぶらりと下に投げ出されたままで、左手だけで蘭を支えている。
震えが止められなくて、知らぬ間に新一のシャツを握り締めていた。
「・・・ごめんな」
ぽつりと呟いた声は、いつもの新一と変わらぬ声をしていた。
つまらないことで喧嘩をして、照れながら謝ってくれた時。そんな時と変わらぬ口調で。こつんと蘭の肩に頭を乗せた。
「怖い思いさせて、ごめん」
優しい言葉に、涙が出そうになる。
伝わってくる温もりに、まだ自分は生きているのだと実感する。

さっき新一が撃った相手は、死んでしまったのだろうか?
新一が、人を殺した・・・・・?


「いつまでも逃げるなよ、工藤」


鋭利な声が、ビル内に響く。まだ遠くだが、確実に迫ってきている。
人差し指を立てて唇にあてる。静かにしろという合図。蘭もこくりと頷く。
その指で、今度はある場所を指差す。そこへ移動しろという意味らしい。がくがくと震える足を、なんとか前へ出し。崩れた壁の間に身を隠した。
新一はその壁の前に座って、蘭が見えないようにする。
「まったく。梃子摺らせんじゃねーよ」
じゃりっと砂を噛む音がして、声が間近に降ってきた。
きっと、今、新一の目の前に立っているのだろう。

「大人しくしてりゃ、見逃してやったものを。どうやら、殺されたいらしいな?」

追ってきたのは、あの長髪の男。
確か、ジンとか呼んでいた。
冷酷な瞳を思い出しただけで、背筋が凍る。
蘭もそれなりに場数を踏んできた。あの瞳は殺人犯というよりも、殺戮を楽しんでいる殺人鬼の瞳だ。
「さて。まずは、後ろに隠れているお嬢さんから行こうか?」
ぴくんと身体が反応する。新一が庇っていることなど、お見通しなんだ。
「そうはさせねーよ」
「ほう? そんな銃でオレに対抗しようってのか? 舐められたもんだな。人を殺したことなど、ないくせに」
「・・・ご期待に添えなくて残念だけど。こう見えても、人を殺してんだ。それに、相手がお前なら、躊躇ったりなんかしねーよ」
新一の声に、自嘲のようなものが混ざっている。
なんだろう。こんなの、新一らしくない。
でも、人を殺したって?
探偵として、罪を憎んでいたはずなのに。どうして、そんな風に笑うの?
人を殺したなんて、簡単に言わないで。それじゃあ、まるで、目の前にいる殺人鬼と同じじゃない。

「バカ!」

気がついた時には、身体が動いていた。
すくっと立ち上がって、つかつかと2人の間に割り込む。
涙が流れていて、きっと顔もぐちゃぐちゃだろう。そんなことどうでもいい。
「2人とも、大バカよ!」
「よせ、蘭!」
慌てた新一が立ち上がり、蘭を庇うように身体を滑らせる。左手で後ろへと追いやられながらも、叫び続ける。
「何よ! それで2人ともカッコいいつもり? 人の命を奪って、それで自分が神にでもなったつもり?」

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